世田谷区には、地域風景資産の選定というしくみがあります。
これは1999年3月に施行された「世田谷区風景づくり条例」に基づくしくみです。
条例には、「~~区民等の参加の下に、地域風景資産として選定することができる」とシンプルに書かれているのですが、具体的に地域風景資産とは何か?どうやって選定するのか?という中身の部分をゼロから区民参加で考える場となったのが「街並みづくりフォーラム(のちの風景づくりフォーラム)」でした。
弊社は風景づくり条例の検討にはじまり、風景づくりフォーラムでは区民参加で3年議論を重ねた末に地域風景資産の選定のしくみをまとめ上げ、3回の86箇所の地域風景資産の選定、そして選定後のフォローアップまで一貫して関わってきました。
2024年3月に開催されたイベント『世田谷区都市デザインフォーラム2024~地域風景資産のこれまで×これから』は、この25年四半世紀にわたる地域風景資産に関する活動を振り返ると共に、これからの風景づくりの可能性について語るというイベントです。
プログラムは、第1部の座談会、第2部の上映会、そして会場では1日を通して地域風景資産と風景づくり活動団体の展示会が実施されました。
第1部の座談会では、弊社の千葉がコーディネーターを担い、地域風景資産の活動団体から3名と、新しいスタイルで活動をしている若手の2名に登壇いただき、「地域のつながりと風景づくり」をテーマに議論しました。
地域風景資産とは、大切にしたい風景を守り・つくり・育てるための「風景づくり活動」を担う団体がセットになっていることや、その活動がコミュニティづくりにつながるものであることが選定条件となっています。
このしくみの根底には、対話と活動を積み重ねられるという特徴があり、多くの人の手が入ることで世田谷の風景が守り育ててられてきたという成果につながっています。
登壇団体の1つである「崖線みどりの絆・せたがや」では、区内の貴重な水とみどりの風景軸である国分寺崖線のみどりを守る複数の団体をネットワークさせながら、大きな運動として風景の保全に取り組まれてきました。
「駒沢給水塔風景資産保存会(コマQ)」では、弦巻にある給水塔の価値を冊子や映像、イベント等を通して広く発信している団体です。水を扱う施設ということで通常は中に入ることができない給水施設ですが、東京都の許可を得て近隣小学校の生徒に向けた見学・写生会を企画・実施し、こどもたちのふるさととして風景の価値を伝える取組をされています。
また、「野沢3丁目あそび場づくりの会」は、民間の敷地をプレーパークとして運営している団体です。土地の取得から、住宅地の中にあそび場をつくるという近隣との関係づくり、継続的な場所の運営など、それぞれの大変なプロセスの中から、この地域風景資産が育まれていることがわかります。
このように「風景」をこうした活動や対話から生まれるものとして見出すことによって、当たり前にそこにあるものではなく、人の営みによってつくられているものであることを実感することができます。
一方、四半世紀を経て活動が高齢化し担い手がいなくなってしまったり、活動や風景そのものがなくなると言った問題や、知名度があまり上がっていない、情報発信が区民に十分届いていないという問題が指摘されました。
登壇いただいた若手の活動では、歩行者天国にした商店街の路上を活用したコミュニティ活動(おやまちプロジェクト)や、馬事公苑のけやき広場をプレイスメイキングする活動(bajico)など、公共空間に多様な人が関わり、収益活動も含めた活動の体制が模索されていることが印象的でした。
現在世田谷区内ではエリアマネジメントの検討を進めている地区が増えてきています。活動団体単独ではなく、地域の団体が連携しながらまちを運営していくという視点が、風景づくりにも求められているのかしれません。
第2部の上映会では、1999年のフォーラムの検討や街歩きでビデオカメラを持ってボランティアで撮影を続けていた花形静雄氏の貴重な映像をはじめ、世田谷区が昭和60年から平成8年に制作しテレビ東京で放映していた「風は世田谷」の初期の番組から風景に馴染みの深い映像を鑑賞しました。
時代と共に風景は変化し続けていくものですが、今回の企画のように取り組みが語り継がれていく機会があることや、映像としてアーカイブが残されていくことの大切さを実感できる貴重な機会となりました。
この企画と同時期に、三軒茶屋の生活工房で開催されていた展覧会「世田谷のまちと暮らしのチカラ~まちづくりの歩み50年」でも、地域風景資産や映像の展示を行っており、市民参加と協働を積み重ねていきた世田谷のまちづくりの歴史の中で、これからの風景づくりに想いを馳せる貴重な機会となりました。
令和5年度地域風景資産に関わる検討及び風景づくり交流会運営業務委託
site:三茶しゃれなあどホール(世田谷区)
since:2021
clients:世田谷区(都市デザイン課)
link:世田谷区ホームページ>風景づくり>地域風景資産