出来事が生まれる場をつくる

スタジオまめちょうだい
主宰 吉川晃司さん

第2回目は、気仙沼市の八日町地区を中心にまちづくりに取り組む吉川晃司(よしかわこうじ)さんです。吉川さんと石塚計画デザイン事務所(以下、石デ)は、一関市千厩町で行われた千厩駅前にぎわいづくり社会実験(2019年7〜9月)でご一緒し、空き店舗改修や屋外休憩スペースの設置など素敵な場づくりを進めていただきました。 今回は、吉川さんが、ご自身がプレイヤーとなりながら八日町で取り組む場づくりについてお聞きしました。(聞き手:安富)

「くるくる喫茶うつみ」でマスターをしている吉川晃司さん

雑談から生まれた吉川さんと石デのご縁

安富

吉川さんとは千厩の社会実験でご一緒する機会をいただきました。
東京へリテージマネージャーの会の会議で合同会社住まい・まちづくりデザインワークス(以下「SMDW」)の野田明宏さんと話している時に、千厩の社会実験の話題になって、SMDWで仕事をしていた吉川さんが千厩に移住されたと聞いて、これはすごいご縁!と、空き店舗の改修の相談をしたのでした。

吉川さん

そうでしたね。石デのスタッフのみなさんは千厩の人たちと仲良しで、地域にかなり馴染んでいたことが印象的でした。

安富

空き店舗を改修して「せんまや100人女子会」で出されたアイデアを実現する場所をつくっていただき、本当にお世話になりました。
生まれ変わったあの場所を見た瞬間、吉川さんに改修を頼んで本当によかった!と思ったんですよ。

吉川さん

千厩のプロジェクトは、女性のパワーでまちづくりを進めようというコンセプトが鮮明で、共感できました。
改修した駅前のあの場所は、僕が毎日の通勤中に「ここってこんな風に使えるとおもしろいだろうな」と思っていました。
だから声をかけてもらった時にすごく関心が湧いたんです。ちょうど気仙沼市の八日町で「みちくさプロジェクト」も良い雰囲気で終わった頃で、その手応えを自分の住む千厩でも活かせるんだと思って、僕もワクワクしたことを覚えています。

安富

ありがとうございます!
私たちもとてもいい経験をさせていただきました。さて今日は吉川さんのこれまでのこと、そして、現在八日町で取り組まれていることをお聞きしたいと思います。

アートから刺激を受けた学生時代

安富

まずは、学生時代。
吉川さんの専攻は、やはり建築でしょうか?

吉川さん

2009年に筑波大学の建築デザイン専攻を卒業しました。
筑波では芸術専門学群の中に建築領域があって、周りにいろいろな分野のアートを勉強している人がいて、ものづくりをしている人たちが多かったです。

安富

身近におもしろい人がたくさんいたんですね。
卒業してすぐに建築の仕事を始めたんですか?

吉川さん

あまり良い選択だったとは言えないですが(笑)、周りもあまり就職活動を頑張らず、同じく僕も何も決めずに卒業してしまって、2年ほどフラフラしていたんです。

安富

フラフラ、そうなんですね。
その間は何を?

吉川さん

友人の演劇を見に行ったり、展覧会でアート展示を手伝ったりしていました。その場所が、美術館や公共施設じゃないことが多かったんです。でも、場所がカッチリしていなくても、すごくいいものができあがっていて。それで、だんだんとそういう「場づくり」を自分たちでもチャレンジできるんじゃないかなと、感じるようになりました。

町工場を改修したシェアスタジオ「float」が出会いの場に

吉川さん

それで、東京の下町エリアである墨田区でぼろぼろになった町工場を見つけて、友人たちと借りて、作品を制作できる場にしようということになりました。
シェアスタジオ「float」といいます。僕はその場自体を作品にしたいなって考えていたんです。

安富

かなり大きな町工場ですね。
どうやって改修を進めたんですか?

吉川さん

仲間と試行錯誤しながらDIYで改修しました。

安富

見慣れた町工場をアート活動の場に変えたんですね。
それが吉川さん主宰の「スタジオまめちょうだい」のはじめての仕事だったんですか?

吉川さん

そうですね。floatをきっかけに、友人と2人組のユニットとして立ち上げました。
最初は、美術館の展覧会の施工の仕事などがありました。2013年頃に、floatを見に来た地元の方から住宅を工房として改修する仕事の相談を受けました。
でもその時点では本格的な改修経験がなかったため、同じくfloatを通じて知り合ったSMDWの野田明宏さんに相談をして、一緒に仕事に取り組むことになりました。

安富

floatという場が、仕事や人との出会いを提供してくれたんですね。

吉川さん

そうですね。この仕事にじっくり関わらせてもらって、実務経験を積む貴重な機会になりました。

墨田区にある「float」の外観
町工場がアート空間に生まれ変わった

仕事の縁・家族の縁で千厩に移住。気仙沼市で仕事をスタート

安富

吉川さんは現在千厩に住んでいますが、移住したきっかけは何ですか?出身地だとか、何かゆかりがあったとか?

吉川さん

SMDWで仕事をしているうちに、気仙沼市の内湾地区の復興まちづくりや八日町地区の災害公営住宅の計画・設計を担当していることを知りました。
気仙沼は、妻の実家がある一関市千厩町に近い場所でした。
僕は東京出身ですけれど、妻にはゆくゆくはUターンしたいという気持ちがあって、自分も移住してもいいかなと思っていました。
そこで、SMDWの気仙沼市の仕事を手伝うということで、2016年に千厩町の妻の実家へ引っ越しをすることにしたんです。

安富

なるほど。そんなストーリーが。
設計事務所としての仕事が終わった後の仕事はどうするか、不安はなかったですか?

吉川さん

どうしようかなと思いながら過ごしていました。
でも、なんとかなるもので。気仙沼の経営者の方たちが震災後に創設した「一般社団法人気仙沼市住みよさ創造機構(以下「機構」)」の事務局の仕事を任せていただけることになりました。
2017年から4年間、その仕事に従事しました。

安富

素敵なご縁がつながりますね!

住民の新たなチャレンジを応援したい

安富

八日町で場づくりをはじめたのは機構の仕事を始めた頃からですか。

吉川さん

そうですね。2019年には、ETIC.主催の「ローカルベンチャーラボ」に参加して、その中のエリアブランディングラボに所属して、自分の活動の棚卸しができました。
そこで、場づくりを行う時に、自分なりに大切にしたい気仙沼の文化を再認識したんです。

安富

ぜひ知りたいです!

吉川さん

一つ目は、漁師町文化です。漁師の「宵越しの金は持たない」文化が商店街の賑わいを支えてきたことです。
二つ目は、つながりの文化です。「物故祭」が特徴的で、亡くなった人を弔う同窓会みたいな行事で、地域のつながりをとても大切にする文化が根付いています。
三つ目は、旦那衆文化です。何かまちで行事がある時は旦那衆たちが自分のリソースを惜しみなくまちに提供したり、何か始める人を応援したりする文化があります。

安富

震災復興を進めるという大きな課題に直面した時に、つながって応援し合うという、気仙沼の文化が力になったんでしょうか。

吉川さん

まさに、新しいプロジェクトを始めたり、それを応援する気概があるまちなんです。だからこそ、住民による小さなチャレンジを受け止め、育てる場や仕組みがあるといいなと考えました。
それは、いわゆる「事業」でももちろんいいんですけれど、例えば、釣りとか、料理とか、誰にでも仕事以外の趣味があると思います。
それを趣味以上の「なりわい」にするチャレンジを応援したい。気仙沼を「なりわいの地方都市」にしたいと考えました。

「一般社団法人気仙沼市住みよさ創造機構」のアフターファイブで、八日町のイベントをプロデュース

趣味をなりわいに育てるシェアテナント「てんまど」

安富

まずは、どんなことから始めたんですか?

吉川さん

八日町を舞台に、自分のやりたいことや、応援できることを雑談する「みちくさ企みナイト」、やりたいことを実際に実行してみる「八日町みちくさプロジェクト」を企画しました。
そこで、アイデアのある人と空き店舗などの遊休空間の所有者がつながって、アイデアが実現するきっかけになればと思ったんです。

安富

何か成果がありましたか?

吉川さん

まちの酒屋さんの一部が空きスペースになっていたんですが、みちくさプロジェクトを通じてこの場所で小さな商いをしてみたいと言っていた女性がいました。
そこで、その場所を借りられるようにオーナーさんに相談をして快諾をいただいたので、内装を僕が手伝って服の交換所をオープンすることができました。そのお店は1年くらい続きました。

安富

思い描いた流れで、企みを現実につなげられたんですね!

吉川さん

はい。でもその後そのお店は場所としては閉じることになって、また空いてしまったんです。それで、今度は自分がプログラムを考えようと思って、さらに改修を加えて、小さな商いのできる「てんまど」というシェアテナントを2019年にオープンしました。

安富

シェアテナントっておもしろい取組ですね。

吉川さん

そうですね。パン屋さん、お弁当屋さん、アクセサリー屋さんなど、小さな商いをチャレンジしたいという人に利用してもらうことができました。

八日町商店街のT字路交差点に面する「てんまど」では
小さなお店を出すことができる
てんまどで「なりわい」を磨くお誘いチラシ

なりわいをビジネスに育てる「くるくる喫茶うつみ」

吉川さん

シェアテナントのニーズがあることはわかりました。
ただ「てんまど」では、営業時間が出店者が出店する日の昼間の数時間に限られるという制約がありました。
それでもう少し長い時間開いていて、みんながふらっと立ち寄れるような場所をつくりたいと思いました。

安富

「てんまど」の経験を糧にした次の展開ですね。

吉川さん

そうです。交差点を挟んで「てんまど」の正面にあって、地元に親しまれていたうつみ菓子舗が2018年から空き店舗になっていました。
ここで「がんばらない喫茶店」をやりたいなと思ったんです。

安富

がんばらない喫茶店?おもしろい視点!

吉川さん

経験のない自分にとって飲食店で稼ぐのは至難の技。
なので、自分のオフィスも兼ねて、地域の人が立ち寄ってくれるような喫茶店というか。もっというと、喫茶をやるのは僕じゃない日もあって。むしろ、飲食店をやりたい人のチャレンジの場として使ってもらえるような場所になればと考えました。
店名は「くるくる喫茶うつみ」です。2021年の6月にオープンしました。

安富

店名の由来は?

吉川さん

菓子舗うつみには出入口が2つあって、お客さんが来て、お店で世間話をしたり買い物をしたりして、またまちに出かけていく。お店自体が交流の場になっていたんです。その人と人が紡がれてきた感じを引き継ぎたいと思いました。
くるくるは人が回遊するイメージ。それと、僕がお店に立っていても、お客さんがお店に立って僕がお客さんになってもいい、キッチンの周りを人がくるくるして役割も変わっていくイメージです。
「うつみ」の名前はリスペクトの意味で引用させていただきました。
お店の中には、回る椅子や回る什器があって、いろいろなくるくるを集めて、お客さんに楽しんでもらっています。

リノベーション中のくるくる喫茶うつみ

くるくると人が交流し、変化を生み出す場

安富

オープンから、もうすぐ2年経つんですね。
今までどんな利用があったかを少し紹介いただけますか?

吉川さん

気仙沼にはインドネシアの方が実習生として多く住んでいるんですが、国際交流のNPOが「つながるインドネシアカフェ」という企画を月1回開催しています。インドネシアのアチェ島にはコーヒー屋台がたくさんあるそうで、気仙沼にもそういう場を作りたいと相談がありました。場所貸しというよりも、僕もそこに一緒に関わって開催している感じです。

吉川さん

貸しスペース的な利用は、やはりちょこちょこあります。震災後に、近くの内湾地区に「気仙沼リアス調理師専門学校」という学校ができたんですが、ある日その学校に通っていた女性が店に立ち寄って「自分もこういう場所を作りたい」と声をかけてくれました。
それで、まずはここでお店をやってみてはとお誘いして、週2回お店を担当してくれることになりました。
最終的には、店舗兼住宅を別の場所に建てて今年の6月からお店を始めることになりましたが、チャレンジの後押しにはなれたんじゃないかと思います。

吉川さん

それから、本物の牛をお店の前に連れてきた「ミルク喫茶」というイベントもありました。地元の牛乳をもっと知ってほしい、一緒に味わおう!と開催したものです。
もともと酪農家さんとは知り合いだったんですが、そこでお手伝いをしていた若い方がイベントをしたいと相談してくれて実現しました。
子どもたちも牛に会いに遊びに来てくれて、大賑わいでした。

安富

へえ!おもしろい!吉川さんが思っていた、人がくるくる交流したり、なりわいを磨く場がいろいろな形で生まれてきているんですね。

「つながるインドネシアカフェ」では
インドネシア流のコーヒーや料理を楽しめる
牧場から牛がやって来た「ミルク喫茶」
八日町全体を使ったイベントの時は店先にも屋台が出現
夜はお店のナカが見えやすくなり、
ついついのぞきたくなる雰囲気

まちのプレイヤーたちと、八日町の可能性をもっと広げたい

安富

てんまどとくるくる喫茶うつみが向かい合う交差点で、まちの賑わいにも少しずつ変化が生まれているのかなと思うんですが、吉川さんは今後どんな展開を考えているんですか?

吉川さん

くるくる喫茶うつみは「がんばらない喫茶店」にしたいと言いましたが、僕がいろいろやっても、リソースは自分一人なので限界があると思っています。
例えば、イベントで小さなお店を出してもらうのでもいいし、プレイヤーを増やしていくことで、まちへの広がりができていくといいなと思っています。

安富

小さなチャレンジをどんどんしてもらって、将来的には近隣の空き店舗を使って開業してもらうというのも1つの理想の展開ですか?

吉川さん

そうですね。このお店を作ったことでまちの可能性がどんどん増えてきたのが嬉しいです。
これまでの八日町の仕事で、地元のデザイン事務所などと関わる機会がありましたが、その人たちが八日町で事務所兼イベントスペースをつくろうと言ってくれている。そういう形で、使っていない場所を活用できると、状況がもっと変わってくるんじゃないかと期待をしています。

安富

連携パートナーとして一緒に取組をしていくイメージ?

吉川さん

完全連携ではなくてもいいんです。
お互いに、やれることをどんどん展開していくような、まちのプレイヤーの同胞が増えていくといいなと思っています。

安富

思いを同じくするプレイヤーがまちに入ってくると相乗効果が生まれそうですね!

吉川さん

まだまだだと思っていますが、やりたい人や場所の資源をつなげたり、外からの人材をまちに呼び込むことで、このまちの可能性をもっともっと引き出したいと思っています。
このくるくる喫茶うつみは、wifiや電源も完備していてワークスペースとしても活用できるので、市のお試し移住の取組などとも連携して、外から来る人とまちをつなげる場になれたら嬉しいです。

安富

それじゃあ、石デでワーケーションを企画して使わせてもらうっていうのもありですね。

吉川さん

もちろんです。いつでもお待ちしています!

ご近所のおなじみさんに親しまれている、くるくる喫茶うつみ
これからも色んな人が主役になるお店

(聞き手:安富啓 文:kuratame)

吉川晃司(よしかわこうじ)
1985年東京都生まれ。2009年、筑波大学芸術専門学群建築デザイン領域を卒業。2011年に大学同期の筒井佳樹氏と建築ユニット「スタジオまめちょうだい」を設立。2016年に一関市千厩町へ移住。建築設計事務所の現地スタッフ、地元まちづくり団体の事務局を務めたのち、2021年にくるくる喫茶うつみを開業。喫茶店のある気仙沼市八日町地区を拠点に建築・まちづくりに取り組んでいる。

くるくる喫茶うつみ
営業時間 13:00〜19:00
定休日 火曜・日曜
住 所 気仙沼市八日町2−2−9
座席数 10席
電 話 050-7114-6337

シリーズ『まちのひと・こと・ば』
私たちが、仕事や暮らしの中で出会った素敵な人たちを再訪し、いま手がけていることや考えていること、これからやってみたいことを対談形式でワイワイ聞いていきます。
この対談をつうじて、まちに関わる「ひと」、そこで生まれる「こと」、「ひと」と「こと」を育む「ば」の魅力や可能性をみなさんと再発見したい!そんな思いではじめたワクワクシリーズです。

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