コーヒーとアウトドアで、人とまちと暮らしをつなぐ

「SPROUT」「Camp&Go」代表
峠ヶ 孝高さん

第5回目は、北海道ニセコエリアにある倶知安町でロースタリーカフェ「SPROUT(スプラウト)」と複合施設「Camp&Go(キャンプアンドゴー)」を手がける、峠ヶ孝高さんです。
石デが倶知安町のまちの賑わいづくりの社会実験「まちなか広場」の企画・運営をお手伝いした際に、企画・実行委員としてご参加いただきました。その軽やかで芯のある活動にいつも刺激をいただいてきました。
なぜ、峠ヶさんのもとには自然と人が集まり、新しい動きが生まれていくのか。その原点にある「暮らしの哲学」と、倶知安という「まち」への想いをお聞きしました。
(聞き手:丹藤、ごとう)

SPROUTと隣接するCamp&Goを訪問してお話をうかがいました(左:丹藤右:峠ヶさん

出会いは北海道倶知安町「まちなか広場」という社会実験

ごとう

本日はお忙しいところ、ありがとうございます!「まちのひと・こと・ば」企画、ついに峠ヶさんにお話を伺えて嬉しいです!

峠ヶさん

いえいえ、こちらこそありがとうございます。なんだか久しぶりですね。

丹藤

石デに入社した年にCamp&Goに立ち寄り、峠ヶさんとお会いして。私も山岳競技をやっていることから共通の知り合いも多く話が弾んで、初めて会った気がしませんでした。

ごとう

ここ数年倶知安町を訪れる機会がなくご無沙汰してしまいました 。
改めて振り返ると、峠ヶさんとの最初の出会いは2017年の「まちなか広場」でしたね。

峠ヶさん

そうでしたね。駅前の空き地を活用して、賑わいをつくろうという社会実験でした。

丹藤

石デは倶知安町の商工会議所さんからご依頼をいただいて、現在は顧問の石塚を中心に倶知安駅前通りの賑わいづくりの検討をお手伝いしていました。

ごとう

2017年からは、検討したことを仮設の設備で検証をするための社会実験を2年間行いました。その実行委員会に峠ヶさんが参加してくださったのが最初ですよね。

峠ヶさん

あの時、みんなで「ドラえもんの空き地」みたいだねって話していましたよね。土管が置いてあるだけなのに、みんなが集まって野球もできるし、座って喋ることもできる 。そういう場所にしたいねって。

ごとう

まちの中心に子育て世代の居場所をつくることで賑わいを生み出そうというテーマでした。「まちなか広場」というネーミングは峠ヶさんの発案だったと思います 。他にも若手の飲食店や経営者の皆さんにご協力いただいて、最初の年は2ヶ月間、賑わいをつくるためのチャレンジショップやイベントをやりましたね。

峠ヶさん

あそこでチャレンジショップをやったかき氷屋さんが、その後、夏場だけですけど実際にお店をオープンさせたり、僕も知り合いを誘って出店したりして、楽しかったですね。

ごとう

「社会実験」としていろいろ試せたことが、すごく良かったですよね。失敗してもいいんだ、やってみようっていう空気感があって。

峠ヶさん

本当に。あれがなかったら、自分で投資して何かを試すなんて、なかなかできなかったと思います。

倶知安町の駅前通り沿いの空き地を借り、社会実験として開催した「まちなか広場」

社会実験から生まれた、7年続くランニングコミュニティ

丹藤

あの社会実験から生まれたもので、今も続いていることがあると聞きました。

峠ヶさん

そうなんです。実験2年目のときに、ハード(場所づくり)だけじゃなくてソフト(企画)も何かやろうって話になって。できる人が得意なことで気軽にやれることを考えて、僕は当時から山で走っていたので、朝6時に広場に集まってみんなで走って、コーヒーを飲もうと。

ごとう

ありましたね!「グッドモーニングランニング」

峠ヶさん

それが、7年経った今もずっと続いてるんですよ!水曜日の朝6時に。今は僕がメインじゃなくて、ストライドラボ(アウトドアショップ)ニセコ店の店長が引き継いで主催してくれています。

丹藤

7年間、水曜の朝6時に集まってみんなで走る!いいなぁ〜一緒に走りたいです。

峠ヶさん

週末じゃなくて、週の真ん中。中だるみしそうな水曜日に、一回体を動かしてリセットしようって。今も結構な人数が集まるんですよ。

ごとう

すごく爽やかで仲良くなれる、素敵なコミュニティですね!

峠ヶさん

それが一番大きいかもしれないですね。転勤族の方とか、地域おこし協力隊で赴任したばかりの人が、まちに入り込むきっかけや友達作りの場になっていて。走った後はコーヒーを飲んだり、誰かが持ってきたお土産を食べたり。あの「まちなか広場」での実験が、こういう形で今も続いているのは嬉しいですね。

「まちなか広場」から始まったGoodMorningRun(撮影:峠ヶさん) 

原点はアラスカで見た「暮らしと仕事が一体」の生活スタイル

丹藤

峠ヶさんの軽やかな発想や行動力って、何がルーツなんだろうと思っていました。何かのインタビュー記事で、千葉県ご出身ながらアラスカに憧れていた少年時代のお話を拝見したんですが、そのあたりが原点なのでしょうか。

峠ヶさん

ああ、星野道夫さんですね。大学1年、19歳の時に、神田の古本まつりでたまたま星野さんの写真集を開いたんです。そしたら「19歳のとき、1冊の写真集と出会い、アラスカに渡った」っていうフレーズが書いてあって。

ごとう

ええー!ご自分と全く同じじゃないですか!

峠ヶさん

そうなんです。「今の自分と同じだ、これはアラスカに行かなきゃ駄目だ」って思って、その次の年に本当に行きました。

丹藤

すごい行動力(笑)。

峠ヶさん

星野さんはもう亡くなられていたので、本に出てくる場所や人を訪ねて回ったんです。そうしたら、現地で出会った人が「泊まっていきなよ」って家に泊めてくれたり、オーロラを見に連れて行ってくれたり。

ごとう

そのまま本に出てきそうなお話ですね。

峠ヶさん

そこで見た彼らの生活が、「暮らしそのものが仕事」みたいな感じだったんです。朝ご飯を作るところから寝るまでが全部ひとくくりで、遊びでもあり、仕事でもある。そういう、暮らしと仕事が一体になったスタイルに強烈に憧れて。「北国で暮らしたい」と思った原体験ですね。

山とアウトドアの本や情報がいっぱいのSPROUT店内にて。アラスカを旅した頃の写真も飾られている

「自由」を学んだNAC時代

丹藤

そこから、どういった経緯で倶知安へ?

峠ヶさん

アラスカから戻って就職を考えていた時に、北海道のNAC(ニセコアドベンチャーセンター)という会社を見つけて「ここで働きたい!」と思ったんです。でも、当時の僕はスキーしかやったことがなくて。

ごとう

え、そうなんですか?てっきりアウトドア全般をやられていたのかと思っていました。

峠ヶさん

いえいえ(笑)。なので、まずはアウトドアを知らなきゃ駄目だと思いアウトドアメーカーに就職しました。埼玉の店舗に配属されたのですが、そこでカヤックのインストラクターをやりました。

丹藤

まずはスキルを磨いたんですね。

峠ヶさん

石橋は叩くタイプなので(笑)。それで2年経って、「よし行こう」と。それで倶知安に来て、NACで5年間働きました。

ごとう

NACでの経験はいかがでしたか?

峠ヶさん

それがすごく大きくて。当時の社長(ロス・フィンドレーさん)が「峠ヶくんは自分で何かやりたいタイプだと思うから、自分の場所だと思って自由にやって」と言ってくれたんです。それでトレイルランニングレースのコースディレクターを任されたんですけど、最初の大会で、コース表示が少なすぎてトップ選手から全員まとめてコースロストさせるっていう大失敗をしまして。

丹藤

うわあ…(笑)。競技をやっているので共感できますが、運営側としては笑えない状況ですね。

峠ヶさん

もうパニックですよね。そしたら、スイーパー(最後尾)をやってくれてたロスさんが、電話で「みんな違うところに行っちゃってるよ」って。そこから、ロスさんが全員に追いついて「こっちじゃないよ!」って連れ戻してくれたんです。

ごとう

社長自ら!

峠ヶさん

本当に頭が上がらないです。自由にやらせてもらって、最後は守ってくれるっていう安心感があった。この経験が、今の自分の、若い人たちを応援したいっていうスタンスにつながっていますね。

丹藤

峠ヶさんがコースディレクションした「NACトレイルランinニセコ」、私も2024年に選手として走りました!とてもワイルドなコースとアットホームな雰囲気で、大好きな大会です!

「NACトレイルランinニセコ2024」にて。手前がニセコアウトドア界のレジェンド、ロス・フィンドレーさん(右はちゃっかり3位入賞していた丹藤)

シアトルの原風景:SPROUTのはじまり

丹藤

NACで5年働かれた後、2009年にSPROUTをオープンされるわけですが、なぜ「コーヒー」だったんですか?

峠ヶさん

それも、あのアラスカの旅がきっかけで。20歳の時、アラスカへの経由地だったシアトルで、飛行機が遅れて3日間滞在することになったんです。

ごとう

また、物語のような出来事が起こりましたね(笑)。

峠ヶさん

まだ日本にスターバックスもない時代で。街を歩いていたら、至る所にカフェがあって、いろんな人が集まっていたんです。アウトドアショップの横のカフェではみんなが地図を広げて「次どこ行く?」って話していたり、映画好きが集まるカフェがあったり、音楽好きが集まるカフェがあったり。

丹藤

カフェを中心に、いろんなカルチャーのコミュニティが生まれていたんですね。

峠ヶさん

その光景がずっと心に残っていて。NACを辞めて、妻と「自分たちで何かしたいね」と話していた時、そのシアトルの話をしたら、「もう一回行ってみよう」と。二人でシアトルを再訪したら、10年近く経っていたのに、あの時の光景がそのままあったんです。

ごとう

わあ、素敵ですね〜

峠ヶさん

「やっぱこれだね!」と。ニセコもスキーやアウトドアが盛んな場所だから、カフェでコーヒーを飲みながら山の写真を見たり、「あーでもないこーでもない」って語り合ったりできる場所ができたら最高だなって。それがSPROUTのはじまりですね。

シアトルの光景に刺激を受けてはじまったロースタリーカフェSPROUT

まちの「ハブ」として:Camp&Goが育むもの

丹藤

SPROUTのお隣にCamp&Goができたのが2019年。SPROUTが10周年を迎えたタイミングだったんですね。

峠ヶさん

もともと、隣に3階建ての古い建物があったんです。でも、老朽化で雨漏りもひどくて、管理が大変になってきて。もう取り壊そうかと決めたときに、空いたこのスペースで何をしようかな、と考えていたんです。

ごとう

そのタイミングで、あの「まちなか広場」社会実験があったわけですね。「まちなか広場」の振返りの会の後、石塚と私に「仲間とこんな場所を作ることになりました」と言ってスケッチを見せてくれた時のことをよく覚えています。「まちなか広場」の取組が、数年後に本当の場所として形になって、感激しました!

峠ヶさん

頭の中に「ドラえもんの空き地」のイメージがちょうどあって、SPROUTでの経験と、まちなか広場での実験が、僕の中でつながったんですよね。

丹藤

本当に、そうなっていますよね。

峠ヶさん

ニセコエリアは世界中から人が来る特殊な場所なんですけど 、一方で、仲のいい人たちだけで固まってしまいがちな側面もあるので、それはすごく勿体無い。外国人が来たからって壁を作るんじゃなくて、自分とは違う価値観を持つ人と話を聞く機会って、すごく大事だと思うんです。

丹藤

わかります、まちづくりの仕事をしていても「仲間内だけ」になってしまうと可能性が広がりにくいと感じています。

峠ヶさん

コーヒーもそう。地産地消という考え方があると思いますが、地球の裏側で同じように丹精込めて豆を作ってる人がいることを知るだけで、世界が広がる。コーヒーやランニングは、そういう壁を作らずに人とつながるための一つのツールだと思っています。

ごとう

まさにCamp&Goは、そういう循環が生まれる場所になっていますよね。名前の通り、キャンパーとして入居しているお店が巣立っていったり、フードトラックで出店していた人が、実店舗を持ったり。

峠ヶさん

そうそう。あと、町から本屋さんが無くなってしまって、どうにかできないかと思っていたんですが、いろんな縁がつながって、洞爺湖町の「本と酒と自然の店 BACKWOOD」が、ニセコ店としてCamp&Goに2026年4月からオープンすることになりました。Camp&Goのテーマである「アウトドアとライフ」にも重なって、またひとつ、新しい流れが生まれそうです。

峠ヶさん

このCamp&Go LOGBOOKの冊子を作ってくれているクリエイターたちも、最初はみんな駆け出しだったんです。ここを「自分の仕事ではできないことを試す場」として使ってもらって。それが今や、みんなプロとして羽ばたいていって、もうタダではお願いできなくなっちゃいましたけど(笑)。
Camp&Go LOGBOOK:Camp&Goが年2回発行するリトルプレス(冊子)。施設を訪れる人や店舗オーナー(キャンパー)たちの記録や想いを、グリーン/ホワイトシーズンの活動録として綴ったもので、地域や人々のストーリーをつなぐ「手紙」のような役割を持っている。

Camp&Go2階の宿泊スペースCamp&Go Stayにてインタビュー。テーブルの上の冊子はCamp&Go LOGBOOK

もっと世界を知って、その経験をこのまちに還元していく存在でありたい

ごとう

若い世代を応援する立場になられて、今、ご自身がチャレンジしたいことはありますか?

峠ヶさん

僕自身は、コーヒーやランニングを携えて「もっと世界を知りたい」ですね。来週もネパールに行ってきます。

丹藤

ネパールですか!

峠ヶさん

もちろんオーナーとしてこの場所を良くしたいという気持ちがあるんですけど、個人的にはもっといろんな世界を見たい。

ごとう

小さい頃に近所に「変なおじさん」がいませんでしたか?(笑)海外を放浪してきた人とか、哲学的なお話をする人とか。そういった方に影響を受けて、まちづくりの活動を始めたという若者も多いと思います。

峠ヶさん

まさにそれ!僕がニセコに来たばっかりの頃って、そういう人がいっぱいいたんですよ。でも、僕らの世代ぐらいから、だんだんみんな「ちゃんと」 しすぎちゃってて。

丹藤

それ、すごく分かります(笑)。

峠ヶさん

だから、僕自身が「変なおじさん」であり続けなきゃなって(笑)。世界を旅して、その経験をこのまちに還元していく。そういう存在でいたいですね。

丹藤

「変なおじさん」であり続ける、最高です(笑)。私も峠ヶさんのように世界を知って、経験を積み、還元していけるように頑張ります。また海外の山にも登りに行きたくなりました!

ごとう

お話を伺って、本や海外の光景との出会いから、峠ヶさんが大切にされている「暮らしと仕事の地続き感」や、NAC時代に受けた「若い人の自由な挑戦を応援して、最後は守る」という恩送りが、SPROUTやCamp&Goという場所の空気感そのものを作っているんだなと、納得しました。
本日は、本当にありがとうございました!

お話をうかがったあと、Camp&Goの前にて(左:峠ヶさん、右:ごとう)

(文:丹藤、ごとう)

峠ヶ 孝高
1979年、千葉県生まれ。アラスカの自然と暮らしに憧れ、大学在学中にアラスカを旅する。卒業後、アウトドアメーカー勤務を経て、2004年に北海道倶知安町へ移住。ニセコアドベンチャーセンター(NAC)で5年間トレイルランニングのレースディレクターなどを務める。
2009年、倶知安町の駅前にロースタリーカフェSPROUTをオープン。コーヒーと何かが交わることで新たな楽しみに出合い、世界が広がるような体験と空間づくりを目指している。2019年、SPROUTの隣にアウトドアとローカルライフをコンセプトにした複合施設Camp&Goを設立。6つのサイト(区画)に個性豊かなキャンパー(店舗オーナー)が集まり、自然と暮らしを愛する人々が情報交換やイベントを通じてつながり、旅人と地域住民が交流するアットホームな拠点になっている。

Webサイト SPROUT / Camp&Go

シリーズ『まちのひと・こと・ば』
私たちが、仕事や暮らしの中で出会った素敵な人たちを再訪し、いま手がけていることや考えていること、これからやってみたいことを対談形式でワイワイ聞いていきます。
この対談をつうじて、まちに関わる「ひと」、そこで生まれる「こと」、「ひと」と「こと」を育む「ば」の魅力や可能性をみなさんと再発見したい!そんな思いではじめたワクワクシリーズです。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

目次